経済ショックで売上が半分になったときにわたしが生き延びた方法
わたしは、アネハショックという建築業界の不況の時に、倒産すれすれまでいったことがありました。
でも倒産しそうになってはじめて、それまでぼんやりと思っていたことを実際に行うことができました。
具体的には、目先の利益だけを追わずに、たとえ利益率を下げてもアウトソーシングできるものは全てする、
そしてふだんの利益は独り占めせずに成果報酬として分配しながら、その代わりにリスクを分散する仕組みにする、
そして事業を拡大する際は、リスクを増やさずに利益だけが増える仕組みをつくる、
そうするために自分のメンタルを再構築する、などです。
その結果、業績を伸ばしても固定費が増えない、売上げが少ない時期でも生き伸びれる体質になることができ、
次のリーマンショックがきたときには、ほぼ無傷で済みました。
加えて、リスクが小さいのに拡大が可能な仕組みとして、多くの企業からM&Aの提案を受けるようにもなりました。
逆境に強い経営体質になる
この状況をスタンダードと考える
ピンチの状況を、これが基本だと考えてみると、自分の事業の見え方が変わってきます。
お客さんが極端に減ってしまう、自分や主要メンバーが動けない状況になってしまうなどは、コロナショックでなくとも十分に起こりえます。
これまでそうならずに済んだのは、ものすごく幸運だったから…と考えます。
もしこの最低の売り上げでも成り立つ仕組みに作り替えることができれば、現在のピンチからも抜け出せるし、
かえって強い経営体質へと生まれ変わることができます。
固定費の大きさがリスクを生む
固定費が小さければ、売り上げの減少はただ利益を減らすだけで、倒産へは直結しません。
ピンチでないときにお金が有り余る経営でないなら、それはリスクが大きすぎる経営…
そう考えられると、これまで気が付かなかった新しいビジネスモデルが見えてきたりするかもしれません。
宣伝費も外注費も売り上げが増えるなら増えてもOKだけど、
売り上げを増やすために、それをさばくための固定費(人の数や店舗の広さなど)が必要なビジネスモデルは、
自分がすべてのリスクを負うオーナー経営者には危険すぎる…と考えても、心配し過ぎということはないと思います。
リスクを減らす~その1
リスクを減らすには、注文が減るときには支払いも減ることが大事です。
そのためには、アウトソーシングで済むものは自分で抱えない、というのは大事なポイントだと思います。
社内を見渡すと、アウトソーシングで済む仕事はたくさんあります。
外へ注文すると目先の支払いは増え利益は減ってしまいますが、売り上げが減るときには支払いも減るので、安全です。
斎藤ひとりさんの本を読んだとき、本部には数人しかいないみたいな記述があって、税金を何十億も払っている事業なのに!と驚いたのですが、
事業は、核の部分だけを握っていればそれでOKなんですよね。(斎藤ひとりさんの場合はブランディングのみ。製造もやらない)
リスクを減らす~その2
また、成果報酬で利益を分配するアイデアも、リスクを減らすには有効です。
ふだんから「強い経営にするためにリスクを分散する」という明確なポリシーをもって、代わりに利益をしっかりと分配していれば、ピンチのときには支払いを減らすことができます。
メンバーのひとりひとりが、個人事業主のように自分の利益の増減やリスクのコントロールを自らで考えるような仕組みがあれば、経営者はすべてを背負わなくてよくなります。
その場合、相手に「心がけ」を求めるのではなく「仕組み」である必要があり、それは経営者にしか作ることができません。
わたしの事業のケースでは、結婚などを機に引退した元プロの方々に販売業務をふり、利益を折半することで、WIN-WINの仕組みを築くことができました。
たとえば保険のセールスもまたフランチャイズもそういう発想だと思いますが、利益を独り占めせずに折半するつもりにさえなれれば、参考にできる仕組みは多いと思います。
安全に拡大できる体質になる
集客が最も大事
多くのITビジネスは、売り上げが増えても固定費はほとんど増えない仕組みで経営をしています。
そういう事業に共通している特徴は、「集客」をおさえていることです。
たとえば宿泊予約サイトは、宿泊業っぽくはあっても、自分はホテルは持ちません。
一方で、自分がリスクを負っている側の場合は、焦燥感から、集客を他に依存してしまいがちです。
言い方は悪いですが、そういうケースでは自分の資産を彼らに使われることになってしまいます。
(自分の資産を使ってようやく生み出した利益から全取引でマージンを抜かれるとか、よく考えると腹が立ってきませんか?笑)
自分がリスクを背負うのは、集客で他に依存しなくていい自信がものすごくある場合に限る…と、個人的には思います。
集客とはブランディングで、経営における最も大事な仕事と言えるので、外部へ任せるのではなく、自らが取り組む必要があると思います。
この指とまれ型に変わる
お客さんの必要を満たすだけの商売は、手軽だけど競争は激しいものです。
必要だからに過ぎない買い物に関してはお客さんは安いほうがいいし、また宣伝の量が集客量を決めています。
でも「この指とまれ型」の事業にできると、そういう競争からは解放されます。
自分がリスクを負うオーナー経営者の場合は、大企業と「必要とされる競争」をするよりも、必要を満たすだけに留まらない価値を提供する「この指とまれ型」が安全なのでおすすめです。
その世界最大の例は、スティーブ・ジョブズだと思いますが、
ポイントはどれだけ個人的な情報発信ができるか?で、そこに惹かれたファンの心理がベースとなっているほど、集客は安定します。
どんな経済ショックのときも必ず元気に生き延びる会社がどんな業界にもあると思いますが、自分の事業と似た規模でそれを成し遂げている会社を参考にするとよいと思います。
ちなみにわたしもアネハショックまでは、ディスカウントしてもいいからたくさん売ることを目指していましたが、
アネハショック後も変わらず繁盛していたあるライバル会社に驚いて、凝ったインテリアコーディネートを売る業態に変えると、お客さんのほうから探してもらえるようになり、集客が安定しただけでなく利益率も増えました。
自分のメンタルの構造改革
生活レベルを落とせるだけ落とす
わたしは経営がピンチになったとき、生活レベルを落とせるだけ落としました。
それはそうアドバイスをくれた社長がいて、なるほどと思ったからです。
まず海が見える3LDKのマンションから、友人の工務店の工場の上にある宿舎に引っ越しました。
そして、個人の愛車を手放し、会社のバンを使うことにしました。
あとは、シアターシステムからスポーツ用品まで、持ち物のほとんどすべてを売りました。
(引っ越した日は惨めな気持ちで涙がぼろぼろ出た)
これは、削減できるコストというよりも、ポイントはメンタルにありました。
そこまで落ちても大丈夫であることを確認できると、恐れは半分以下になります。
恐れで動けなくなる人は多いと思いますが、
「わたしはあそこまで落ちても大丈夫なんだ」と思えたことで、その後の人生でも、恐れや余計なプライドはたぶん本来の半分以下で済んでいる気がします。
開き直れたことでわたしはその後復活できたのですが、しばらくは遊びに行くのもあとはデートですら、うしろに脚立や工具が満載なバンのままで、友達に「劇団」と面白がられました。
会計事務所の人に「そろそろ車を変えて節税でもしませんか?(みすぼらしいし)」と言われても、逆にそれが面白くて、結局2年くらいそのままでいました。(そのあとちゃんと長年夢だった車を無事に買いましたが)
足をふみ外しての落下とは違い、自ら腹をくくって落ちるバンジージャンプ手法は、ピンチのときに経営者が自分でも気が付いていなかった非常用のエネルギーを引き出してくれる効果があると思うので、とてもおすすめです。
(足元が水浸しになる雨漏りがひどいこれも大好きだったが…)
(二十歳のころからの夢だったこれを手に入れたときは、ピンチのあとだっただけに嬉しかった。ただの3シリーズではないことが分かる人にしか分からないところがサイコー。シルキー直6サイコー)
「いい人」もほどほどに
具体的な改善策が効果がない場合は、問題はもっと深いところにあるかもしれません。
「いい人」が原因で倒産してしまう社長は、そういう数字があるわけではないけれど、個人的に観察している限りでは、倒産原因のもしかしたらトップかも…という気がするくらい、多い気がします。
必要なときに縮小ができない、多くを背負い過ぎてしまう、NOと言えない、人の評判が気になってしまうなど、
こういう時期に固定費の負担が大きくて赤字になってしまう場合、それを景気のせいだと思うのはふつうだと思いますが、
その奥には「いい人でいたい」というメンタルが隠れていることがあるなあと思います。(振り返ればわたしも最初のピンチのときにそうだったから思う)
それは内心恥ずかしいことでもあるから、そこへ行きつくのは容易ではありません。
でも、自分はなぜいい人だと思われたいのか?という部分を、そういう恥ずかしさを乗り越えて直視することができると、そもそもの問題が見えてくることがあります。
わたしの場合は、リスクを背負う事業の拡大をやめようと思えたのは、自分がそういう性質であること(利益よりも他人の承認を得ることを無意識に優先してしまうことがあること)を認めることができたからでした。
もしそこを直視することを避けていたら、きっとリーマンショックのあたりで債務超過に陥ったであろうことがリアルに想像ができてしまい、恐ろしいです。
ちなみにわたしは「いい人」という言葉は日常でほとんど使わないのですが、それはわざわざそういう話題が持ち出されるときはほとんどが「恐れている人」という言葉のほうが適切だと、自分のケースで考えてみても思うからです。
(関連コラム)
上下関係をやめる機会にする
みんなが対等で、役割分担としての責任の重さの違いはあっても、利益やリスクについては共通の意識をもっている、
そういう仕組みになっている場合は、ピンチになっても人数分の解決策を期待できるし、チームとして掛け算にもなることもあると思います。
一方でイエスマンに囲まれている場合は、気分はいいだろうけど、いざというときに本当の意味で頼れる人はいないだろうと思います。
それは心理的な関係が相互依存だからです。
上は下との関係を日々確認することが心理的な裏の目的で、それは業績よりも優先されます。
むしろ、業績が下がると下を責めることができるので、無意識では業績が下がることを望むことすらあるかもしれません。
下も無意識に、上を怒らせずに自分の身を守り、ときには怒られることによって仕事をしなくていい楽さを手に入れ満足している可能性もあります。
上下関係は右肩上がりの経済では有効でしたが、これからは経営者のリスクを増やすだけになってしまう可能性があります。
ピンチのときに、自分事のように取り組んでくれるチームメイトを望むのであれば、それは友人としても通用する、対等の関係しかありません。
それが難しいのは、少し嫌な言い方をすると、ふだんの上下関係による快感を諦めなければならないからです。
そんな快感が生み出されているところに、すでに経営資源が相当に割かれてしまっている場合は、現状以上を期待できる余力はおそらく社内に残っていません。
これもまた、いい人に思われたいことと動機はそんなに変わらず、そんな問題の大元は、経営者の心の中の欠乏感だったりします。
困ったことは変えるといいこと
商店街にお客さんが来なくなったら、呼び戻そうとする人もいるけれど、あっさりと郊外やネット上へ移転する人もいます。
諦めないことは強さなのか?それとも変わることへの恐れなのか?
それを直視することは、自分の脳は問題解決よりもその場の立場を守ることを優先するので、なかなか難しいことです。
売上げが下がったら、移転してでも業態を変えてでも、売り上げが下がってもつぶれない体制になることを考えればいい、
主力の営業スタッフが辞めてしまって困ったなら、新しく募集する前に、そうやって悩まなくていい仕組みを探せばいい、
自分にとって本当に大事な人には、自分に払っているお金をまわしたらいい、
眼精疲労で頭痛になったら、頭痛薬もいいけれど、たとえばパソコンの時間を減らせないかなど、そもそも頭痛薬を飲まなくていい仕組みを考えばいい、
口内炎ができたときは、症状をおさえる薬を飲んで無理やり飲み会へ行くのをやめて、もっと健康的で自由な新しい道を探すときかも…、
など、たまにこんな風にドライに考えられえると、必要な方向転換が楽にできるかもしれません。
わたしはリーマンショックのころには、それまで2つあった店舗はやめていて、IT事業になっていました。(実店舗を閉めるのはいろいろな意味で大変な作業だったが)
さいごに
ふだんは、「なかむらさんは心配し過ぎ」と言われたりすることもあります。苦笑
わたしの場合、祖父も父も倒産したこともあって、小さいころからずうーっとピンチな気分が抜けずに、ここまで生きてきました。(倒産って恐ろしいですよ~。もしかしたらしぬことよりも怖いかも…。苦笑)
だからわたしのリスクセンサーはとても敏感なようです。
ビジネスの相談を受けると、わたしの脳内ではまず、その事業に対するストレスチェックが自動的に始まります。
それは現実的な部分から経営者のメンタルに至るまで、多岐にわたります。
するとわたしの脳は恐れを感じ始めるのですが、その恐れを感じる部分が、社長が直視するべきテーマが隠れているところ…
という感じで、センサーを活用しています。(ふだんは不快でしかないセンサーだがこういうときだけは役に立つ。笑)
こういう時期は、最悪の事態を想定したビジネスモデルへと構造を改革する良いチャンスだと思います。
ピンチになったときに、ただ元の売り上げへ戻ろうとがんばるのは、さらにコストを増やすことになりがちなので危険です。
それよりも、同じようなことが次に起こったときに同じ種類のピンチに陥らないためにはどうしたらいいか?を恐れを乗り越えて考えることは、
現在のピンチを抜け出すことにも直結するので合理的だと思うし、
実際のピンチの時期にしかできないことはたくさんあるので、これをチャンスと捉えることができると思います。